会計を無料ソフトにしてはいけません。では、何なら替えていいのか
無償の業務ソフトの話をすると、必ず出てくる質問があります。
「会計ソフトも無料にできますか」
結論から申し上げます。やめたほうがいい。
無償の会計ソフトは存在します。海外製のものも、日本語が使えるものもあります。 それでも、勧めません。
この記事は、その理由と、では何なら替えていいのかという線引きの話です。
1. なぜ会計を替えてはいけないのか
理由は2つあります。1つ目より、2つ目のほうが大事です。
理由1:制度への対応が、自前になる
会計・給与・税務は、日本の制度に紐づいています。
消費税の扱い、インボイス、電子帳簿保存法。制度は変わります。そして変わるたびに対応が要ります。
国内の有償ソフトは、その対応を代わりにやってくれるから有償です。 海外で作られた無償のソフトには、日本の制度に合わせる理由がありません。
対応が自前になるということは、制度改正のたびに自社が判断するということです。 費用を下げたつもりが、判断の責任を自社で抱え込むことになります。
理由2:この領域は、顧問の先生と一体で回っています
そして、こちらのほうが本質的です。
会計・給与・税務は、ソフトだけで完結していません。 顧問の税理士、社会保険労務士。その先生方が使う前提で、いまの形になっています。
データの受け渡し。決算前のやりとり。年末調整。制度が変わったときの相談。 先生が扱えない形にしてしまうと、そのやりとりが全部止まります。
費用は下がるかもしれません。そのぶん、確認と手戻りが増えます。
ソフトだけを外から入れ替える話ではない。 この領域は、先生方と一緒に決めるのが正しいと考えています。
2. 見分け方——「制度に紐づくか」の一点です
では、何なら替えていいのか。
判断の基準は1つです。その業務は、制度に紐づいているか。
| 例 | 判断 | |
|---|---|---|
| 制度に紐づく | 会計、給与、税務、社会保険、保険請求 | **替えない。**先生方と一緒に決める領域 |
| 制度に紐づかない | 文書、表計算、資料、PDF、図面、画像、社内の共有 | 見直す余地がある |
制度に紐づかない業務には、毎年払い続けている費用が意外とあります。
文書と表計算の年間の費用。**PDFを編集するためのソフトの費用。**図面を描くソフトの保守。 画像を扱うソフトの月額。どれも、ほぼすべての会社が何かしら払っています。
そして、こちらには制度の縛りがありません。 取引先とのやりとりが成立して、いま溜まっているものを失わなければ、替えられます。
3. 制度に紐づかなくても、替えないほうがいい場合
**線引きは、制度だけではありません。**先に、止まる条件を書きます。
そのソフトの中に、自社で育ててきたものが溜まっている場合。 登録した部品、書きためたマクロ、細かい設定。 それを失うなら、費用の差では釣り合いません。
「作る道具」ではなく「ためる場所」として使っている場合。 新しく作るために使っているのか、過去のものを開き直すために使っているのか。 後者が多いソフトは、替えると過去が読めなくなる危険があります。
取引先や提出先から、形式を指定されている場合。 相手のある話は、自社だけで決められません。
この3つのどれかに当てはまるなら、費用が下がっても進めないほうがいい。
4. 「安くする」ではなく「使い分ける」
私は、全部を無料にしましょうと言っているのではありません。
適したものを選ぼうと言っています。
有償のものを勧める場面は、はっきりあります。 制度に紐づく業務がそうですし、先生方や取引先との接続が要る業務もそうです。 そこは、きちんとお金を払って、対応してもらうほうが安く済みます。
**一方、制度に紐づかない業務。**ここに毎年払い続けている費用は、見直す余地がある。
どちらがどちらかを見分けること。それが、この話の中身です。
5. なぜ、いまこの話をするのか
「制度に紐づかない業務なら替えられる」というのは、実は昔から言えたことです。
それでも替えられなかった理由は、機能ではありませんでした。
困ったときに聞く先が無いこと。そして情報が海外にしかなかったこと。
そこが、AIで埋まりました。 24時間、何度でも聞ける。海外の文献がそのまま読める。 更新が続いているものと、放置されたものを選び分けられる。足りない部分を後から埋められる。
つまりこれは、無料ソフトの話ではありません。 AIによって、これまで採用できなかった選択肢が採用できるようになった、という話です。
そして、その選択肢を全部に当てはめてはいけない。 **当てはめる場所と、当てはめない場所がある。**この記事は、その線引きの話でした。
6. 限界を書きます
「替えるといくら下がる」という数字は書きません。私がまだ測っていないからです。
そして、いちばん失敗が多いのは「入れた後」です。 入れることはできても、「使い方が分からない」で止まります。 入れることより、続けることのほうが難しい。
今日できること(費用なし・15分)
- いま契約しているソフトを、紙に書き出す(金額・更新月・契約した年)
- 1つずつ、「これは制度に紐づくか」を書き添える
- **紐づかないものだけを見る。**そのうえで、そのソフトの中に自社で育ててきたものが溜まっていないかを確認する
- 両方とも「いいえ」のものが、検討の対象になります
たいていの会社で、1つか2つ出てきます。そして無ければ、それが結論です。
知ったうえで「うちには不要だ」と判断されるなら、それでいい。 知らないまま選択肢から外れているのが、もったいない。