AIの話を、仕事の話に。データを預からない支援です。

「使い方が分からない」で終わらせない——無償ソフト最大の壁の話

結論を先に書く。

**無償ソフトの導入が失敗する原因は、機能不足ではない。「操作が分からない」で使われなくなることだ。**入れたけれど誰も開かなくなったソフトは、機能で負けたわけではない。聞く先が無かっただけだ。

ここは以前より確実に楽になった。ただし**「AIに聞けば全部解決する」ではない。**解決することとしないことがはっきり分かれていて、そこを知らずに導入すると、結局同じ場所で止まる。

順序は次のとおり。(1)何が壁なのか、(2)AIに聞いても解決しないこと、(3)解決する・しないの線引き、(4)例外、(5)実務でどう考えているか、(6)今日15分で試せること。

何が壁になっているのか

定義する。ここで言う壁とは、「やりたいことは分かっているが、そのソフトでどう操作すればいいか分からない」状態のことだ。

商用ソフトなら、ここにサポート窓口がある。電話をかければ人が答える。その窓口の存在が、金額の中に含まれている。

無償ソフトには、それがない。代わりにあるのは、公式のドキュメントと、利用者が書いた記事と、掲示板の書き込みだ。**これらは量としては十分にある。**問題は量ではなく、探す手間のほうにある。

自分が困っていることを、正しい用語で表現できないと検索に辿り着けない。**そして、困っている人は用語を知らない。**だから困っている。これが壁の正体で、無償かどうかとは本質的に関係がない。用語を知らない人と、用語で書かれた情報の間に橋が無いという話だ。

AIが効くのはここだ。「この画面で、こういうことがしたいのだが、どうすればいいか」を普通の言葉で聞ける。用語を知らなくても入口に立てる。橋が架かった、という言い方が近い。

AIに聞いても解決しないこと

デメリットから書く。次の4つは、聞いても解決しない。

1. 画面のどこにあるかは、正確には教えてくれないことがある。 メニューの位置や項目名は、そのソフトの版によって変わる。AIが答える位置と、目の前の画面が違うことは普通に起きる。「そういう名前の機能がある」までは分かるが、「左上から3番目」は当てにならない。

2. 古い情報を返すことがある。 学習した時点の情報で答えるので、最近変わった部分は追いつかない。変わりやすい部分ほど外す。

3. 社内固有の手順は知らない。 「うちではこの書類はこう作る」というルールは、どこにも書かれていない。**ソフトの操作は教えられても、自社の運用は教えられない。**ここは人が引き継ぐしかない。

4. 自信を持って間違えることがある。 存在しない機能の使い方を、それらしく説明してしまうことがある。**操作の説明で「そのメニューが見当たらない」となったら、疑ってよい。**見つからないのは自分が悪いのだと思い込まないほうがいい。

この4つを知らずに全社へ配ると、**「AIに聞けと言われたが、言うとおりにやっても違う」**という不信になる。それが一番まずい。最初にこの4つを伝えておくだけで、だいぶ違う。

解決する・しないの線引き

困りごと 聞いて解決するか 補足
「こういうことがしたいが、機能名が分からない」 **いちばん効く。**用語への橋渡しが本来の得意分野
「エラーの意味が分からない」 メッセージをそのまま貼れば大抵わかる
「この操作の手順を教えてほしい」 手順の骨格は正しいことが多い。画面の位置は要確認
「メニューのどこにあるか」 版によって違う。最終的には自分で探す
「うちのルールではどうすべきか」 × 知りようがない
「この機能はこのソフトにあるか」 **無いものを「ある」と答えることがある。**確認が要る

3行にまとめる。

  1. 「言葉にできない困りごとを、言葉にする」用途がいちばん強い。
  2. 「画面のどこか」は、最後は自分の目で探す。
  3. 無いものを「ある」と言われることがあるので、見つからないときは疑う。

例外——聞く先を人に用意すべき場合

2つある。

**業務が止まると困る操作。**締め日の処理や、提出期限のある作業。**その場で解決しないと困ることは、聞ける人を用意しておく。**AIは待たないが、答えが合っている保証もない。急いでいるときに検証する余裕は無い。

**数人しか使わない、かつ全員が不慣れな場合。**社内に一人も分かる人がいない状態は、AIがあっても不安定だ。**最初の数か月だけでも、外に聞ける先を持っておくほうがいい。**私が保守の相談を受けるとき、この形が一番多い。

実務でどう考えているか

私は現在、別の業務領域で、商用ソフトから無償ソフトへの置き換えを実務で進めている(属する組織や製品の名前は書かない)。ここで、商用ソフトには無かった利点が1つ出てきた。

**無償なので、使う人数の制限がない。**商用ソフトはライセンスの数だけしか入れられないから、「触れる人」が構造的に限られる。結果として、ちょっとした修正でも、ライセンスを持っている人のところへ依頼が集まる。

無償ならその制約が無い。**必要な人全員に配れる。**そうすると、細かい直しはその場でできるようになる。依頼して待つ、が減る。

そして**その修正もAIを使って行えば、間違いが起きにくい。**手順を知らない人が手探りで触るより、聞きながら進めるほうが安全だ、と考えている。

ただし、**ここは検証できていない。**顧客側が自力でどこまで修正できるようになるかは、まだ実際に見ていない。**期待としては書けるが、実績としては書けない。**そこは分けておく。

もう1つ、実感として書いておく。無料であることに対する反応は、想定していたよりずっと良い。「無料のものは不安だ」と言われると身構えていたが、実際には「そんな選択肢があるなら早く言ってほしかった」に近い反応のほうが多い。ここは意外だった。

私がこの話を最初にする理由

提案のとき、私は操作習得の話を後回しにしない。機能の説明より先にすることもある。

理由は単純で、ここが解決していない提案は、導入した後に必ず止まるからだ。機能が足りるかどうかは検討すれば分かる。使われるかどうかは、聞く先があるかで決まる。

そして、**「AIに聞いてください」だけでは答えになっていない。**上に書いた4つの限界があるからだ。だから、どこまでがAIで足りて、どこから人が要るのかを、**導入の前に線を引いておく。**そこまでやって初めて、操作習得の話に答えたことになると考えている。

今日試せること(費用なし・15分)

AIがどこまで使えるかは、15分で体感できる。新しいソフトを入れる必要はない。いま使っているソフトで試すのがいい。

  1. **今週、操作で困ったことを1つ思い出す。**解決済みでもいい。
  2. AIに、普通の言葉で聞く。用語を無理に使わない。「Excelで、同じ名前が何回出てくるか数えたいのですが、どうすればいいですか」で十分だ。
  3. 返ってきた答えを、実際にその場でやってみる。
  4. **合っていたか、違っていたかを覚えておく。**特に「メニューの場所」が合っていたかどうか。

**これを3回やると、どこまで信用していいかの感覚がつかめる。**その感覚を持っている人が社内に一人いれば、無償ソフトを入れたときの安心感がまるで違う。

聞き方のコツを1つだけ。「何をしたいか」を先に書く。「この機能の使い方」ではなく「こういう結果が欲しい」と聞くほうが、良い答えが返る。機能名を間違えていても、目的が合っていれば正しい方向に修正してくれるからだ。

この記事で書かなかったこと

  • 特定のAIサービスの比較や選び方(変わりやすい領域なので、別途扱う)
  • 顧客が自力で修正できるようになるかの実績(未検証。期待としては書いたが、実績としては書けない)
  • 社内向けの操作手順書の作り方(現場ごとに違うため)
  • AIの回答が正しいかを組織としてどう担保するか(品質の話になるので、別記事で扱う)

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