検図にハンコは押されている。では、誰が何を見たのか
結論を先に書く。
図面のチェックをAIにやらせる話をする前に、確認すべきことがある。いま、そのチェックは実際に機能しているか。
多くの現場で、検図は「目で見る」だけで行われている。**そして押印はされる。**書類の上では確認済みになっている。だが、見た人がその分野に詳しいとは限らないし、詳しくても人の目には限界がある。
私はこの分野の仕事に関わってきて、**ここが一番の問題だと考えるようになった。**AIの精度がどれほどかという話は、その後の話だ。機能していないものを自動化しても、機能していないものが速くなるだけだ。
**先に断っておく。私は営業で、図面は描かない。**社内のAI導入を進めるなかで作図と検図の仕組みに行き当たり、設計者と組んで作り直している立場だ。
順序は次のとおり。(1)検図とは何を見る作業か、(2)目視で落ちるもの、(3)AIに任せられる・任せられないの線引き、(4)例外、(5)ではどうするか、(6)今日30分でできること。
検図とは何を見る作業か
定義する。ここで言う検図とは、出来上がった図面が、正しいかどうかを別の人が確認する作業のことだ。
確認の中身は、実は性質の違う3つが混ざっている。
1. 技術的に正しいか 回路として成立しているか、選定した部品が要求を満たすか。これは分かる人にしか分からない。
2. 図面どうしで食い違っていないか 7〜10ページある図面の間で、番号や名称が一致しているか。1ページ目で決めた記号が、5ページ目でも同じか。分かる人でなくても、手順があれば追える。だが人力では極めて追いにくい。
3. 記載そのものが正しいか 誤字脱字、記入漏れ、そして流用元の情報が残っていないか。
この3つは、必要な能力も、見落としの起き方もまったく違う。**にもかかわらず、実務では「検図」という1つの作業として扱われ、1回の押印でまとめて済まされる。**問題の出発点はここにあると考えている。
目視で落ちるもの
デメリットから書く。目視のチェックが構造的に苦手なものが、はっきりある。
1. ページをまたぐ整合性。 7〜10ページの図面で、番号が途中から食い違っている。1ページ目と7ページ目を同時に見ることは人にはできないので、**記憶で照合することになる。**枚数が増えるほど、精度は落ちる。これは注意力の問題ではなく、作業の設計の問題だ。
2. 流用元の情報の残り。 既存の図面を下敷きにして新しい図面を作るのは、どの現場でもやっている。当然の効率化だ。**問題は、書き換え忘れが残ること。**別の案件の名称がそのまま載っているのに、誰も気づかないまま出ていく。**これは私が見てきた中で最も重い種類の見落としだ。**技術的な誤りより、信用に直接響く。書き換え忘れが1か所そのまま外へ出て、大ごとになりかけた例を見ている。図面そのものは正しかった。誤字脱字の類でも、信用の問題になることはある。
3. 「一度見た」ものの再確認。 修正後にもう一度見るとき、人は変わった箇所だけを見る。変わっていないはずの箇所が変わっていた場合、まず気づかない。
4. 検図する人の専門性が足りない場合。 押印の運用が形だけになっている現場は珍しくない。**責める話ではない。**人を割けないから、手の空いている人が見る。それだけのことだ。だが、そうすると1番目の「技術的に正しいか」は実質的に見られていないことになる。
**言い方を選ばずに書くと、目視だけの検図は、上の3種類のうち3番目の一部しか見ていないことが多い。**にもかかわらず、押印は3つ全部を確認した印として扱われる。このずれが放置されているのが現状だと考えている。
AIに任せられる・任せられないの線引き
では機械にやらせればいい、となるが、ここも分けて考える必要がある。
| 見るもの | 任せられるか | 理由 |
|---|---|---|
| ページ間の番号・名称の整合 | ◎ | **機械が最も得意な作業。**人が最も苦手な作業でもある |
| 流用元の情報の残存 | ◎ | 「この案件に無いはずの語」を探す作業に落とせる |
| 記入漏れ・書式の逸脱 | ○ | ルールが言葉にできていれば可能 |
| 誤字脱字 | ○ | ただし専門用語は誤判定が出る |
| 技術的な妥当性 | △ | **提案はできるが、判断は人が持つべき。**ここを任せるのは早い |
| 現場の事情を踏まえた判断 | × | 図面に書かれていない前提は知りようがない |
線ははっきりしている。「照合」は任せられる。「判断」は任せられない。
そして重要なのは、人が苦手なもの(ページ間の整合、流用元の残存)が、機械の得意な側にきれいに寄っていることだ。**逆もまた然りで、機械が苦手な技術的判断は、人がやるべき部分として残る。**分担として噛み合っている。
例外——自動チェックを入れないほうがいい場合
2つ挙げる。
**チェックの結果を誰も見ない体制の場合。**自動チェックは指摘を出す。出しても直さないなら、**押印が形骸化していたのと同じことが、別の形で起きるだけだ。**指摘に対応する時間を確保できないなら、入れる前に体制の話をしたほうがいい。
ルールが言葉になっていない場合。「なんとなくおかしい」を機械は判定できない。**何が正しいのかを先に決める必要がある。**そしてこれは、次に書くとおり、実は本題そのものだ。
では、どうするか——答えは作図の前にある
ここが、この記事でいちばん言いたいところだ。
検図を強くする一番の方法は、検図を強くすることではない。間違いが入り込みにくい作り方に変えることだ。
理由は単純で、**チェックは後工程だからだ。**後工程でどれだけ頑張っても、前工程が間違いを生み続けるなら、見つける数が増えるだけで、根本は変わらない。しかも見つけるのは常に大変で、直すのはもっと大変だ。
設計の段階でルールを決めておくと、そもそも起きない種類の間違いがある。
- 番号の振り方を決めておけば、途中で食い違いようがなくなる
- 案件ごとに変わる情報を1箇所にまとめておけば、流用のときにそこだけ直せばよくなる
- 記号や名称の表記を最初に固定すれば、ページ間で揺れなくなる
**どれもAIとは関係がない。**ルール作りと、それを守れる作りにしておくことの話だ。AIが効くのはその後で、決めたルールが守られているかを照合する部分にAIを使う。順番が逆だと効かない。
私はいま、この設計と運用の方法そのものを作っている最中だ。図面の作り方の側にルールを持たせ、そのルールに沿っているかをAIで照合し、**AIの判断を信用しきらない形で人の確認を残す。**このバランスの取り方が実務では一番難しいところで、具体的な組み方は現場の図面の性質によって変わる。
**だから、ここは記事で一般化して書ける範囲を超える。**関心があれば、個別にご説明する。
正直に付け加えると、**この方法の効果を数字では出せない。**進めている最中で、精度や速度の測定はまだ形になっていない。**数字が出せない以上、出さない。**うまくいきそうだと考えている、というところまでが、いま正直に言えることだ。
今日できること(費用なし・30分)
いまの検図が機能しているかは、30分で確認できる。新しい道具は要らない。
- 直近に出した図面や書類を1件、手元に用意する。
- ページをまたぐ番号や名称を、1つだけ選んで全ページ追う。(機器番号でも、記号でも、名称でもいい)最後まで一致しているか。
- **その書類の中に、別の案件で使った語が残っていないか探す。**案件名、現場名、日付、担当者名。下敷きにした元の書類を思い出して、そこにあった語で検索する。
- 見つかったものがあれば、それは検図を通り抜けたということだ。
**何も見つからなければ、いまの検図は機能している。**それは良い知らせで、この記事の話は当面必要ない。
**見つかった場合、責めるべきは見た人ではない。**人の目にできないことを人にやらせている、作業の設計のほうだ。そこを変える話になる。
この記事で書かなかったこと
- 検図の自動化の具体的な仕組み(現場の図面の性質で変わるため。個別にご説明する)
- AI支援による検図の精度・速度の実測値(測定がまだ形になっていない。数字は出せないので出さない)
- 作図ルールの具体的な設計(作成中。固まった段階で改めて書く)
- 特定の製品やサービスの比較(この記事は作業の設計の話に絞った)