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無料オフィスソフトで仕事はどこまで回るのか——移行できる・できないの線を先に書く

結論を先に書く。

**無料オフィスソフトに変えると動かなくなるものが3つある。VBAマクロ、Power Query、そしてブラウザ版Wordでの差し込み印刷だ。**この3つを使っていないなら、多くの業務はそのまま移せる。

「無料で全部いける」ではない。「無料で困る箇所は事前に特定できる」——この記事は、その線の引き方を書く。

(私は現在、別の分野で商用ソフトから無償ソフトへの置き換えを実務で進めている。詳細は省くが、そこで効いた判断を後半に書く。)

順序は次のとおり。(1)定義、(2)できないこと、(3)移行可・条件付き・移行困難の線引き、(4)マクロをどうするか、(5)今日試せること。

無料オフィスソフトとは何か

「無料オフィスソフト」とは、Word・Excel・PowerPointと同じ種類の文書・表計算・プレゼンを作れて、利用に料金が発生しないソフトのことだ。大きく4つに分かれる。

ソフト 形態 費用 Office形式との互換
LibreOffice インストール型・OSS(Mozilla Public License v2.0) 無料 Office形式のファイルを開いて保存できる
OnlyOffice Desktop Editors インストール型・OSS(AGPL v3) 無料 Office形式(OOXML)をネイティブで扱う
WPS Office Free インストール型(無料版あり) 無料版あり(広告表示) 公式が互換を「主張」。利用規約の本文は未確認なので、ここだけは鵜呑みにしない
Microsoft 365 for the Web ブラウザ型(Microsoft純正) 無料 書式の再現度は高いが、機能制限が多い

出典: LibreOffice ライセンスLibreOffice ダウンロードONLYOFFICE DesktopEditors リポジトリWPS OfficeMicrosoft 365 for the Web (いずれも2026-08-23に確認)

「無料」の中身はこの4つでかなり違う。完全にオフラインで使えるか、ブラウザが要るか、広告が出るか。まず形態で分けてから比較するとよい。

なお、LibreOffice のライセンスは Mozilla Public License v2.0 である(公式サイトの記載。外部からの貢献コードは MPL v2 と LGPLv3+ の両方で提供される)。ライセンス表記は解説記事によって食い違っていることがあるので、社内で説明に使うなら公式ページを見てほしい。

置き換えると動かないもの

デメリットから先に書く。無料オフィスへの移行で困ることは、ほぼ次の5つに集約される。

1. VBAマクロが動かない。 ブラウザ版のExcelは、ファイルに含まれるVBAを壊さずに開いて編集できるが、マクロの作成と実行はできないOffice for the web のサービスの説明)。LibreOffice には .xlsm 内のVBAを読み込んで実行する仕組みがあるが、それは書き換えではない。イベント駆動のマクロ、ActiveXコントロール、外部アプリ呼び出しは多くが動かない。VBAを自動変換する公式ツールも存在しない。

2. Power Query・Power Pivot の相当機能が無い。 LibreOffice の場合。これに依存した帳票は作り直しになる。

3. 差し込み印刷ができない。 ブラウザ版のWordでは使えず、デスクトップ版のWordだけの機能になっている(ブラウザーと Word での文書の使用の違い)。LibreOffice Writer は差し込み印刷に対応するが、フィールドと日本語フォントの挙動に差があるので、実ファイルでの再確認が要る。

4. 帳票の罫線・列幅がずれる。 会計ソフトから書き出したExcelファイルや、官公庁向けの申請書テンプレートでずれる事例が報告されている。

5. フォントの問題。 游ゴシックなど、相手の環境に無いフォントを使っているとレイアウトが崩れる。これは宛先の環境次第で、こちらでは直せない。

言い換えると、困るかどうかはファイルの中にプログラム(マクロ)があるかと、厳密なレイアウトが要求されるかの2点にほぼ尽きる。それ以外——普通の文書、普通の表計算、普通のスライド——は大抵そのまま移る。

移行できる・できないの線引き表

項目別の判定を示す。前提は各ソフトの公式情報と第三者比較(2026-08-23時点)。この表は判断の入口であって判定ではない。実際に移すファイルで確認してから決めてほしい。

用途 判定 理由
Excel の基本関数(合計・検索・条件分岐など) 移行可 主要な無料オフィスで互換動作の報告が多い
Excel の新関数(XLOOKUP 等) 条件付き 未対応のものがある
ピボットテーブル 条件付き Excel形式と往復すると集計がずれる事例がある
条件付き書式 条件付き 概ね再現するが、見た目が完全には一致しない
VBAマクロ/アドイン/Power Query 移行困難 そのままでは動かない。次節で扱う
Word の通常文書 移行可 互換性の報告が高い
Word の差し込み印刷 条件付き ツールにより可否が分かれる。ブラウザ版Wordは不可
取引先・官公庁とのファイル往復 条件付き レイアウトの厳密な再現を求められるならPDF化
PowerPoint の通常作成 移行可 読み書きとも可
PowerPoint のアニメ・フォント埋め込み 条件付き 細部が崩れる。納品はPDFが無難

3行にまとめる。

  1. マクロを使っていない、かつ納品物をPDFにできる → 移行可。
  2. マクロがある/Power Query に依存している/差し込み印刷が日次業務 → 条件付き〜移行困難。個別の設計が要る。
  3. 電子帳簿保存法のスキャナ保存や、厳密なレイアウトの往復がある → オフィスソフトの話としてではなく、保存要件の側で吸収する。

マクロがある場合はどうするか

「マクロがあるから移行できない」で終わらせない選択肢が、今は3つある。

1. 捨てる。 集計や整形をGUI操作の代わりに回しているだけのマクロなら、棚卸しするだけで消せるものが混ざっている。

2. 書き直す。 マクロの多くは集計・整形・CSV出力であり、AIを使えばPythonなど別の形に書き直せる。ただしVBAからの自動翻訳で完成させることはできず、人の確認が要る。1本あたりの工数について信頼できる統計は確認できていない(不明。実案件で実測して積む)。

3. 操作の自動化で置き換える。 無料・低額のRPA系ツールへ部分的に移す。

大事なのは、書き直した先のファイルは最初からAIが読み書きできる形になることだ。移行のついでに、次の自動化の下地ができる。

もう一点、付け加えておく。書き直すと、元のマクロが「やっていなかったこと」まで手が届くようになる場合がある。Excelの中で完結していた処理を外に出すと、別のデータと突き合わせたり、独自のチェックを足したりが、数十行で書けるようになるからだ。同じものを作り直すだけ、とは限らない。

とはいえ、これは移行の理由にはならない。まず「そのまま動くか」を自分のファイルで確認するのが先だ(手順はこの記事の最後に書く)。

なぜ「限界を先に言う」のか——実務で効いた考え方

私は現在、別の業務領域で、商用ソフトから無償ソフトへの置き換えを実務で進めている(属する組織や製品の名前は書かない)。そこで効いた判断を2つ書く。

第一に、置き換えの成否は「失うものが無いか」の判定で先に決まる。

置き換えを始める前に、まず現行ソフトの中身を確認した。結果、そのソフトは図の「描画」にしか使われておらず、図が本来持つべき部品の情報は最初から入っていなかった。つまり移行で失う資産が無い、と判定できたから踏み切れた。

逆に、設計データの資産が現行ソフトに眠っている現場では、同じ判断はできない。無料オフィスでも構造は同じで、最初に「マクロと厳密なレイアウトが無いか」を数える理由がここにある。

第二に、選定の基準は「無料かどうか」より「AIが直接読み書きできる形式か」だった。

置き換え先には、テキストベースのデータ形式を持つソフトを選んだ。この1点が、その後の展開——雛形1枚からの派生の複製、不足する部品の整備、品質チェック——を全部AIに任せられる前提になっている。無料であることは嬉しいが、決め手ではない。機能表の比較より先に見るべき点だと考えている。

この2点は、無料オフィスを考えるときも同じ順序で見ている(推測。同じ構造で検証を進めている途中である)。

ただし、**見る順序が同じというだけで、結論まで同じになるわけではない。**資産の量、取引先の要求、使う人数で答えは逆になる。だから私は「この手順どおりにやれば置き換えられます」という形では書かない。順序は共通でも、中身は現場ごとに違う。

今日試せること(費用なし・30分〜1時間)

移行を判断する前に、まず自分のファイル1つで線を引く。費用はかかりません。

  1. 手元のExcelファイルを1つ選ぶ。Alt+F11 でVBAの画面を開き、「標準モジュール」にコードがあるか確認する。無ければ「マクロなし」と記録する。
  2. LibreOffice をインストールする(無料、UIは日本語対応)。
  3. そのファイルを LibreOffice で開き、印刷プレビューで罫線・列幅、それに関数の計算結果が同じかを確認する。

1〜3が問題なければ、そのファイルの用途は無料オフィスで回る。全社の判断をする前に、まず1ファイルで境界線を引く。

この記事で書かなかったこと

  • 中小企業でのマクロ利用率の統計(信頼できる一次情報を確認できていない。不明)
  • WPS Office 無料版の利用規約における商用利用の範囲(規約本文を未確認)
  • 各ソフトの個別ファイルでの動作検証(公式・第三者情報に基づく。自分のファイルでの確認を前提にしている)
  • 差し込み印刷やマクロを「AIでどう埋めるか」の具体的な手順(別記事で扱う)

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