保守契約の中身、最後に確認したのはいつですか
結論を先に書く。
**保守契約は、高いか安いかでは判断できない。「払っている額」と「実際に受け取っている中身」が釣り合っているかでしか判断できない。**そして中身のほうは、契約書を見ても書いていないことが多い。
先に断っておくと、これは**「保守を切りましょう」という記事ではない。**私が実際に見てきた中には、必要なものを外してしまっていて、いつ止まってもおかしくない状態の現場もあった。過剰も不足も、同じくらいよくある。
保険に少し似ていると思っている。入りすぎている人もいれば、必要な特約を外している人もいる。どちらも、中身を確認する機会が無かったからそうなっている。
順序は次のとおり。(1)保守契約に何が含まれるのか、(2)この記事でできないこと、(3)確認をすすめる目安、(4)何を聞き取るか、(5)なぜ過不足が起きるのか、(6)今日15分でできること。
「保守契約」に何が含まれているのか
まず言葉を整理する。ひとくちに保守と言っても、実際には性質の違うものが混ざっている。
1. 止まったときに直してもらう 障害対応。いちばん分かりやすく、いちばん価値が見えにくい。何も起きなければ、何もしてもらっていないように見える。
2. 止まらないように見張る 死活監視、容量やエラーの監視。動いていること自体が成果なので、これも見えにくい。
3. 更新を当てる 本体やプラグインの更新、セキュリティ修正の適用。やらないと数年後に効いてくる。
4. 頼めば直してもらえる 文言の修正、ちょっとした変更。ここだけが「依頼した回数」として目に見える。
5. 何かあったときに聞ける先がある 相談窓口。使わない年もある。
問題は、5つのうち目に見えるのが4番だけだということだ。だから「今年あまり頼んでいないな」という感覚だけで判断すると、**見えていない1〜3を切ってしまう。**逆に、1〜3が実際には何も行われていなくても、契約書の上では同じように見える。
この記事で言いたいのは、ここを分けて見てほしい、ということに尽きる。
この記事でできないこと
デメリットから書く。**この記事を読んでも、自社の保守が適正かどうかは判断できない。**理由は3つある。
1. 適正額は、中身を聞き取らないと決まらない。 同じ金額でも、監視と更新まで含んでいるのか、電話がつながるだけなのかで、まるで違う。金額だけを比べても意味がない。
2. 一般的な相場をこの記事には書かない。 書けなくはないが、数字だけが一人歩きすると、かえって間違った判断を招くと考えている。「相場より高いから切る」は、中身を見ていない点で「よく分からないから払い続ける」と同じだ。相場感が必要なら、内容を聞いたうえでお伝えするほうが役に立つ。
3. 切り替えを前提にした記事ではない。 確認した結果、**いまのままが妥当だと分かることも普通にある。**むしろそれが一番多い。確認して何も出てこないなら、それは安心を買ったということだ。
確認をすすめるかどうかの目安
そのうえで、費用感がまったく無いと動きようがないと思うので、私が「一度中身を確認したほうがいい」と考える目安を書く。**これは相場ではない。**市場を調べた数字ではなく、私が確認をすすめるかどうかの線引きだ。
| 月額のおおよその規模 | 私の見方 |
|---|---|
| 月に数千円 | **十分に対応できていると感じているなら、触らなくていい。**この規模で中身を細かく問うのは、労力のほうが高くつくことが多い |
| 月に数万円 | **内容次第。**上に挙げた5つのうち、どれが含まれているかを確認する価値はある |
| 月に10万円以上 | **一度しっかり確認したほうがいい。**この規模なら、何が含まれているかを説明してもらえて当然だと考えている |
この表の使い方に注意してほしい。「10万円以上は高すぎる」と言っているのではない。その規模なら、中身の説明を求めるのが自然だと言っている。説明を聞いて納得できるなら、それは適正だということだ。
何を聞き取ればいいか
確認するとき、金額から入らないほうがいい。**中身から入る。**質問はこの5つで足りる。
- 止まったとき、何分以内に、誰が対応してくれることになっていますか。(契約書に書いてありますか)
- 監視はしていますか。している場合、何を見ていますか。(異常があったとき、こちらから連絡する前に向こうから連絡が来ますか)
- 更新は誰が当てていますか。(最後に当てたのはいつか、記録は残っていますか)
- 直近1年で、こちらから何回依頼しましたか。
- 契約に含まれない作業は何ですか。(別料金になるのはどこからですか)
この5つに答えが返ってくるなら、**中身のある保守だと考えていい。**金額が高くても、それだけのことをしてもらっている。
答えが曖昧なら、**それは業者を責める話ではなく、契約の書き方の問題であることが多い。**聞けば整理してもらえる場合がほとんどだ。
なぜ過不足が起きるのか
ここが本題だと思っている。
**契約は、一度結ぶと見直す機会が来ない。**更新は自動で、更新に理由の説明は要らない。担当者も替わる。**結んだときの経緯を知っている人が、双方からいなくなる。**これが数年続くと、中身と金額の対応関係を誰も説明できなくなる。
**誰かが悪意でそうしているわけではない。**確認する機会が構造的に無い、というだけだ。前に書いたソフトの話とまったく同じ構造で、一度決めたものは、決め直す機会を作らないと決め直されない。
そしてもう一点。**依頼する側は、ITに詳しいとは限らない。詳しくないから外に出しているのであって、それは当然のことだ。ただ、そうすると「何が必要で何が不要か」を自分で判断できない。**結果として、
- 勧められたものを全部つけている(過剰)
- よく分からないものを削っている(不足)
の両方が起きる。**私が見てきた中では、後者のほうが危ない。**バックアップや更新の適用を「使っていないから」という理由で外している例があった。使っていないのではなく、使うときが来ていないだけだった。
私にできること・できないこと
ここは正直に書く。
**できること。**保守の中身を聞き取ったうえで、過剰なのか不足なのかを整理することはできる。相場感もその場でお伝えできる。そのうえで、私が引き受けられる範囲を明示して、その分の費用でお受けする形も取れる。エラーの調査や、監視の仕組みそのものは、いまはAIを使って作れるようになったので、以前より安く提供できる。
**できないこと。私は終日の即応が必要な契約は、お受けしていない。**しばらくは一人で運営するので、他のお客様の対応をしている最中に、電話で別の案件に対応することができない。これは能力ではなく体制の問題で、正直に申し上げるしかない。この点は打ち合わせの段階で必ず説明し、契約書にも明記する。
24時間365日の即応が要る業務なら、**それができる体制の会社に頼むべきだ。**私に相談いただいても、そう申し上げることになる。
**逆に言えば、その条件で足りる現場は多い。**足りるかどうかを一緒に確認するところから始められればと思っている。
今日できること(費用なし・15分)
自社の保守が過不足どちらに振れているかは、15分で見当がつく。
- 保守契約書を探して開く。(見つからない場合は、その事実自体が確認のきっかけになる)
- 紙に3つ書き出す。(a)月額いくらか。(b)直近12か月で、こちらから依頼した回数。(c)契約書に書いてある対応範囲。
- **(c) を、この記事の5分類——障害対応・監視・更新・依頼作業・相談窓口——に当てはめてみる。**どれが入っていて、どれが入っていないかを確認する。
**入っていない項目が、いま誰の担当にもなっていないなら、そこが不足している箇所だ。**逆に、入っているのに1年間まったく機能した形跡がない項目があれば、そこは説明を求めていい。
**この作業のいちばんの成果は、金額の見直しではない。**自社のシステムを、いま誰がどう支えているのかが分かることだ。それが分かっていれば、次に何かが起きたときの動きが変わる。
この記事で書かなかったこと
- 一般的な保守費用の相場(数字だけが一人歩きすると判断を誤らせるため。内容を聞いたうえでならお伝えできる)
- 具体的な監視ツールの構成(現場の規模と要件で変わるため。別記事で扱う)
- 保守を内製に切り替える場合の判断(人を抱えるかどうかの話になり、別の検討が要る)
- 契約の解約や乗り換えの進め方(この記事は確認までを扱う。判断はその後の話)