パソコンの「Office付き」を決める前に、一度だけ確認しておくこと
結論を先に書く。
**「Office付きにしますか」と聞かれて、その場で決めない。**先に確認するのは値段ではなく、社内のファイルにマクロが入っているかどうかだ。ここが分かれば、付ける・付けないは自動的に決まる。
先に断っておくと、この記事は「無料のに乗り換えれば安くなります」という話ではない。**乗り換えられない現場は確実にある。**その線引きは別の記事「無料オフィスソフトで仕事はどこまで回るのか」に書いた。ここで書くのは、その手前の「そもそも自分が何にいくら払っているのか、確認したことがあるか」という話だ。
私が中小企業の方と話していて一番よく出会うのは、高いソフトを使っている現場ではない。選択肢があること自体を知らないまま、更新の案内が来るたびに払っている現場だ。
順序は次のとおり。(1)「Office代」の正体、(2)知ったところで乗り換えられないケース、(3)払っているものの一覧、(4)判断の分かれ目、(5)今日試せること。
「Office代」とは何を指しているか
まず言葉を整理する。「Office代」と一括りに呼ばれているものは、実は3つの別々の買い方が混ざっている。
1. パソコンに最初から付いてくるもの 新品パソコンの「Office付き」モデル。本体価格に上乗せされているので、いくら払ったのかが見えにくい。これが一番よくある。
2. 買い切りで買うもの Office Home 2024。一回限りの購入版で ¥41,380(Microsoft 公式、2026-08-23 確認)。台数と使える年数に制約がある。
3. 毎年払い続けるもの Microsoft 365 Personal は ¥21,300/年、Family は ¥27,400/年(同上)。法人向け契約はまた別の体系になる。
**この3つは同じ「Office代」ではない。**どれを払っているかで、見直したときに戻ってくる金額がまるで違う。まずここを分けないと、比較そのものが成立しない。
なお、ここに挙げたのは個人向けの公式価格である。**法人向け契約の価格は契約形態と販売経路で変わるので、この記事では書かない。**自社の請求書を見てほしい。
知ったところで、そのまま乗り換えられないケース
デメリットから書く。**「知らなかった」を「じゃあ全部やめよう」に直結させると失敗する。**乗り換えが割に合わないのは、次の場合だ。
1. マクロが業務に組み込まれている場合。 無料オフィスではVBAマクロはそのままでは動かない。ブラウザ版のExcelに至っては、マクロの作成・実行そのものができない(Office for the web のサービスの説明)。書き直す工数を数えると、ライセンス代より高くつくことがある。
2. すでに買い切り版を持っている場合。 毎年払っていないなら、乗り換えても返ってくるお金は無い。**その年の支出はなしなのだから、急いで動く理由が無い。**次の買い替えのときに考えれば足りる。
3. 取引先とレイアウトを厳密に往復している場合。 会計ソフトから書き出したファイルや、官公庁向けの申請書テンプレートは列幅がずれる事例が報告されている。ここは節約より事故のほうが高い。
4. 決める人が社内にいない場合。 これが実は一番多い。ソフトを替えるということは、困ったときに聞く先が変わるということだ。「誰も決められないので今のまま」は、それ自体が合理的な判断でありうる。
つまり、「知らないだけで損をしている」と言い切るのは正確ではない。正確には、知らないと選択肢が無いので、比べようがない——というだけだ。比べた結果、今のままを選ぶのは、まったく問題ない。
いま何に払っているのか、一覧にしてみる
自分がどこにいるかを確認するための表を置く。金額は各社の公式ページ記載(2026-08-23 確認)。
| いまの状態 | 年間の支出 | 無料への置き換え | 先に確認すること |
|---|---|---|---|
| パソコンに「Office付き」で購入した | 本体価格に内包(金額が見えない) | 次回の買い替え時に判断できる | 購入時の見積で Office 分がいくらだったか |
| Office Home 2024 の買い切り | ¥0(購入時に ¥41,380) | 急ぐ理由が無い | 使える台数と、次のPC更新時期 |
| Microsoft 365 Personal | ¥21,300 | 検討の価値あり | マクロの有無 |
| Microsoft 365 Family | ¥27,400 | 検討の価値あり | 実際に何人で使っているか |
| Google Workspace Business Starter | ¥800/ユーザー/月(年間契約) | メール・共有ごとの移行になり別の話 | オフラインで作業する必要があるか |
| 法人向け契約で利用中 | 契約次第 | 契約更新時期に合わせて判断 | 請求書の内訳と、更新月 |
出典: Microsoft 365 の料金 / Google Workspace の料金
無料の側の選択肢は、主に次の4つになる。ライセンスと形態だけ挙げておく(互換性の詳細は前回の記事に書いた)。
| ソフト | ライセンス | 形態 |
|---|---|---|
| LibreOffice | Mozilla Public License v2.0 | インストール型・オフライン可 |
| OnlyOffice Desktop Editors | AGPL-3.0 | インストール型・オフライン可 |
| WPS Office Free | 無料版あり(広告表示) | インストール型 |
| Microsoft 365 for the Web | Microsoft 純正・無料 | ブラウザ型・完全オンライン |
出典: LibreOffice ライセンス / ONLYOFFICE DesktopEditors / WPS Office / Microsoft 365 for the Web(いずれも 2026-08-23 確認)
判断が分かれるのはどこか
表を見て、動くかどうかが分かれるのは結局2点しかない。
**第一に、いま毎年払っているか。**払っていないなら急がない。次の買い替えのときに、見積の「Office付き」の欄を見て決めれば足りる。そのタイミングを逃さないこと自体が、この記事で一番言いたいことだ。
**第二に、マクロがあるか。**あるなら、置き換えの話ではなく「マクロをどうするか」の話になる。順番が逆になる。
この2つ以外——ソフトの見た目が違う、メニューの位置が違う、といった話——は、慣れの問題であって判断材料ではないと考えている。実際、乗り換えを渋る理由として挙がるのはここが多いのだが、1週間使うと大抵消える。
なぜ「知らないだけ」が起きるのか
私は現在、別の業務領域で、商用ソフトから無償ソフトへの置き換えを実務で進めている(属する組織や製品の名前は書かない)。そこで実感したことを1つ書く。
選択肢を知らない状態は、担当者の怠慢では起きない。導入したときは、それが唯一の選択肢だったからだ。
私が扱っている領域のソフトも、導入された当時は他に選びようが無かった。無償の代替が実用水準に届いたのは後のことで、しかも届いたことは誰も知らせに来ない。**契約は自動で更新され、更新には理由の説明が要らない。**だから、一度も比較されないまま何年も経つ。
これは責める話ではなく、確認する機会を意図的に作らないと発生しないというだけの話だ。年に1回、更新の案内が来たときに10分使えばいい。
もう1つ、その置き換えで効いた判断を書いておく。**成立するかどうかは、「移行して失うものが無いか」で先に決まる。**私のケースでは、現行ソフトが図の「描画」にしか使われておらず、本来持つべき部品の情報が最初から入っていなかった。だから失う資産が無いと判定できて、踏み切れた。逆に資産が眠っている現場では同じ判断はできない。オフィスソフトでいえば、マクロがその「資産」にあたる。
今日試せること(費用なし・10分)
乗り換えるかどうかの前に、自分が何にいくら払っているかだけ確認する。10分で終わる。
- パソコンの Excel を開き、
ファイル→アカウントを見る。「Microsoft 365」と書いてあれば毎年払っている。「Office Home」等の年号付きなら買い切り。ここで分岐する。 - 毎年払っている場合のみ、請求のメールか、Microsoft アカウントの「サービスとサブスクリプション」で次の更新日と金額を確認する。カレンダーに更新日の2週間前を入れる。
- Excel で
Alt+F11を押し、「標準モジュール」にコードがあるか見る。無ければ「マクロなし」とメモする。
**この3つだけでいい。**乗り換えの判断は更新日の2週間前にやればよく、今日やる必要はない。今日やるべきなのは、判断する日をカレンダーに置くことだ。
この記事で書かなかったこと
- 法人向け契約の価格(契約形態と販売経路で変わるため。自社の請求書で確認してほしい)
- 中小企業でのマクロ利用率の統計(信頼できる一次情報を確認できていない。不明)
- 移行にかかる工数の相場(実案件で実測して積んでいる途中。現時点で出せる数字が無い)
- メール・グループウェアの移行(オフィスソフトとは別の話になるため、別記事で扱う)