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乗り換える前にお金をかけずに確認できるところまで

社内で「そろそろ、あのソフトどうにかしない?」と話題になる瞬間があります。作図のたびに Visio、画像のたびに Photoshop、図面を開くのに AutoCAD——。毎月決まった金額が、決まった形で口座から出ていきます。

けれど、「じゃあ別の何かにしましょう」と急に言えるほど、ITの世界は単純ではありません。置いてあるマシンが古いかもしれないし、現場の担当者が忙しくて新しい操作を覚える時間がないかもしれない。私がご支援先で必ず最初に聞くのは、「過去ファイルがそのままで開けるか」という一点です。

今回は、ヤギヌマ企画がご支援先で見かけることの多い「作図・画像系」の商用ソフト8組について、無料で使える代替を並べてみました。乗り換えるべきだと結論付ける記事ではありません。 今のご自身の状況と照らして、確かめる材料として使ってください。

置きかえが成り立つ条件と、成り立たない条件

最初に、ここをはっきり書きます。置きかえがうまくいくかどうかは、いま社にある過去ファイルがそのまま開けるかどうかでほぼ決まります。

下の表は、元ソフトで作ったファイルを代替が「公式に開けると書いているか」を確認したものです。公式に読める前提があるのは6組、残る2組は公式に対応の記載がありません。

商用ソフト 元の拡張子 代替が公式に元形式を読めると書いているか
Microsoft Visio .vsdx
Adobe Illustrator .ai
Adobe Photoshop .psd △(公式が「常に正しく読み込めるとは限らない」と注意書き)
Adobe InDesign .indd ×(公式に記載なし)
AutoCAD .dwg
Adobe Premiere Pro (プロジェクト) ○(「Premiere Proと互換」と公式に記載)
Microsoft Project .mpp
Lucidchart .lucid ×(公式に記載なし)

**読めない場合の危険は具体的です。**たとえば、社内に残っている InDesign の .indd を Scribus で開こうとしても、公式に対応が書かれていません。テキストの段落が抜けた状態で開けるかもしれません。バージョンが新しいファイルは、作った本人でもレイアウトが崩れて見えることがあります。図面の場合は寸法線がずれると、その図面を使って建築・設備・製造の判断をしている取引先とのやり取りで事故になります。 動画編集も、Premiere Pro と DaVinci Resolve の間で「Premiere Pro と互換」と書かれてはいますが、これは書き出したファイルの話であって、編集中のプロジェクトをそのまま持っていけるかどうかは別問題です。

ここが本記事のいちばん大事なところです。 「過去ファイルが、いま目の前で、元ソフトと同じ見た目で開けるか」を、社内の1台で試してから判断してください。いきなり全社で切り替えを決めると、後戻りできない場所に立ってしまいます。

調査結果の一覧を、読者向けの表に整理する

調査した8組を、横並びで見られるようにしました。金額はここでも書かないことにします。 各社とも値下げや値上げ、定期キャンペーンがあり、記事を書いた日と読者の方が読む日で数字が変わるためです。ご自身で最新のものを確認なさってください。

商用ソフト 代替(無料/OSS) 元の形式を公式に開けるか ライセンス上の注意
Microsoft Visio draw.io(diagrams.net) ○(.vsdxを読める) Apache License 2.0。商用利用可能、制限なし。
Adobe Illustrator Inkscape ○(.ai 9.0以降を読める) GNU GPL。コピーレフト型。改変して商用配布する場合は同じGPLでのソース公開義務が発生する可能性あり。
Adobe Photoshop GIMP △(.psdを読めるが完全互換ではない) GNU GPL。Inkscapeと同じ注意点。
Adobe InDesign Scribus ×(.inddは公式に記載なし) GNU GPL v2 以降。コピーレフト型。
AutoCAD LibreCAD ○(.dwgを読める) GPLv2。コピーレフト型。
Adobe Premiere Pro DaVinci Resolve ○(「Premiere Proと互換」と公式記載) Blackmagic Designの Proprietary License。OSSではありません。 無料版と有償版(買い切り)があります。
Microsoft Project ProjectLibre ○(.mppを読める) Common Public Attribution License 1.0(CPAL)。商用利用可能だが、著作権表示を保持する義務あり。
Lucidchart Mermaid ×(.lucidは公式非対応) MIT License。permissive。商用利用可能、制限なし。

代替の公式ページとライセンスの根拠は、調査結果に添付されたとおりです(出典は各項目の末尾URL参照)。

「コピーレフト型」という聞き慣れない言葉について補足します。これは「私がこのソフトを改造して、新しいソフトとして売ります」となったとき、改造後のソースコードも公開する義務が発生する可能性を示すものです。普段、社内で使うぶんには問題ありません。気にする必要があるのは、そのソフトを組み込んだ自社製品を外販するようなケースだけです。

ライセンスの落とし穴

調査結果のうち、商用利用の制限について、原文を引用します。

“licensed under the Apache License 2.0” 出典: https://github.com/jgraph/drawio

“Inkscape is Free and Open Source Software licensed under the GPL” 出典: https://inkscape.org/about/

“developed as Community, Free Software by the following GIMP authors and contributors under the GNU General Public License” 出典: https://www.gimp.org/about/

“This program is Free Software; you can redistribute it and/or modify it under the terms of the GNU General Public License (GPL) … either version 2 of the License, or (at your option) any later version.” 出典: https://github.com/scribusproject/scribus/blob/master/COPYING

“Open Source and GPLv2” 出典: https://librecad.org/

“The MIT License (MIT) Copyright (c) 2014 - 2022 Knut Sveidqvist … Permission is hereby granted, free of charge, to any person obtaining a copy of this software … to use, copy, modify, merge, publish, distribute, sublicense, and/or sell copies of the Software” 出典: https://github.com/mermaid-js/mermaid/blob/develop/LICENSE

“License Common Public Attribution License 1.0 (CPAL)” 出典: https://sourceforge.net/projects/projectlibre/

これら8組の中で、「商用利用が明確に制限されている代替」は一つもありません。 ただし、GPL系の4つ(Inkscape / GIMP / Scribus / LibreCAD)はコピーレフト型で、改変したものを社外に再配布すると同じGPLでのソース公開義務が発生し得ます。DaVinci Resolveは Proprietary License で、OSSではありません。「無料で使える代替」という条件に合っているのは無料版のみです。

置きかえを試すときの手順

いきなり全社のPCを一斉に切り替えるのは避けてください。次の順で小さく動かします。

  1. 一台だけ代替をインストールする。 普段の作業に使うマシンとは別の、遊んでいるPCが望ましいです。
  2. 過去ファイル5本を開いてみる。 古いファイル、新しいファイル、別部署から受け取ったファイル、と3種類を混ぜます。Photoshop の場合は公式が「常に正しく読み込めるとは限らない」と注意書きをしていますので、レイアウトが崩れる前提で確認します。
  3. 30分の作業を、本物の業務データで試す。 画面の見え方や操作の感じが現場に合わないと、仮にファイルが開けても定着しません。
  4. 現場の担当者本人に「使う/使わない」を判定してもらう。 IT担当者がいない会社では、ここが一番大事です。社長が選んだから使える、という類のものではありません。
  5. 問題が出なければ、その一台の範囲で運用を1〜2か月続ける。 ファイルのやり取りで取引先から指摘が出ないか、この期間で見ます。

この手順を踏まないと、「導入はしたが現場で誰も使わなかった」という一番多い失敗パターンにまっすぐ向かいます。

今日できる最初の一歩

社内のPCを1台だけ用意して、過去3年分のうち最も古いファイルを1つ、代替で開いてみる。 たったこれだけです。

開けたかどうかで、次に何をすべきかが決まります。開けたなら、上の手順の2番へ進めてください。開けなかったなら、そのソフトは「いまのところ無理」と判断して、別の候補を探すか、そのソフトの継続利用を選ぶかになります。

結び

8組の並べものは、ここまでで全部です。数字は一つも入れていません。理由は単純で、金額を入れて「これだけ浮きます」と書くと、読んでいる方が自分の会社で確かめ直す前に判断を決めてしまうからです。ヤギヌマ企画では、ご希望があれば、社内の台帳と照らして一緒に並び替えますし、導入時の現場サポートも承っています。ただ、この記事を読んで「社内の1台で試してみよう」と思えた方は、まずそちらから始めてください。手を動かして確かめる方に、いつも多くの発見があります。

ご支援のお問い合わせは、記事末尾のヤギヌマ企画窓口まで。

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