そのSaaS契約、いったん全部書き出してみませんか
決算が近い時期に、経理の方からこんな声を聞くことがあります。
「毎月、何かのサービスに金額が引かれているけれど、合計でいくらか、よくわからない」
あるいは、「昔導入したまま、使っている人がもう誰もいないツールがあるかもしれない」。そう心配になる場面は珍しくありません。従業員5〜30人ほどの会社では、ソフトの導入が特定の担当者の記憶に紐づいていて、その担当者が異動や退職で離れたあと、そのまま請求だけが続くことがあります。本記事は、そういう状況に置かれた方を対象に、まずは「書き出す」ことから始めてもらうための手順をまとめたものです。
なぜ棚卸しが要るのか
SaaS やクラウドサービス、契約が積み上がる仕組みを理解しておくと、棚卸しの意味がつかみやすくなります。
新しいツールは、たいてい「あの人が必要だと言って入れた」ものです。部署が変わったり業務が変わったりしても、使った本人は別の職場に移ったあと、契約だけがクレジットカードや銀行口座からの引き落としとして残ります。年に一度の自動更新に自動で乗るもの、解約の方法が管理画面に分かりにくく置かれているもの、無料期間が終わって有料になっていたもの。そうした契約は、利用実態と関係の薄いところで増えていきます。
これは誰が悪いという話ではなく、誰も悪くないまま増えるのがこの仕組みの特徴です。だから、誰かが定期的に全部を一覧にして、利用実態と付き合わせる手順が要ります。
棚卸しのやり方
最初にやることは、思いつくものを片端から書き出すことです。完璧を狙わず、思いつく限りで構いません。確認先は次の4か所が基本になります。
| 確認先 | 何が出てくるか |
|---|---|
| 請求書(紙・PDF・メール) | 会社名義の契約、年払いを含む |
| クレジットカード明細 | 個人カード経由の SaaS、Adobe・ChatGPT など |
| 銀行口座の引き落とし | 自動引き落としのサービス、口座振替サービス経由 |
| 各サービスの管理画面 | 現在契約中のコース、利用者数、最終ログイン |
書き出すときは、「サービス名」「契約者(部署・個人)」「支払方法」「更新日」「実際に使っている部署」の5列を作ってください。Excel でも Googleスプレッドシートでも、紙でも、媒体は問いません。
書き出してみた時点で、名前を見ても誰が何のために入れたかわからない契約が出てくるはずです。それは悪い兆候ではなく、棚卸しがうまくいっているサインです。
仕分けの基準
一覧ができたら、3つに分けていきます。残す、やめる、置きかえる、の3つです。判断軸は次の3つに絞ると迷いません。
- 利用実態。直近3か月に、そのサービスにログインした人がいますか。社内で「これを使っている」と言える人がいますか。
- 代替手段。同じことは、無料か、より安い別の手段で実現できませんか。
- 契約の拘束。年払いや自動更新で、解約のタイミングを逃していませんか。
3つの軸に照らして、(a) どれもあてはまる → 残す、(b) 利用実態がない → やめる、(c) 代替手段がある → 置きかえる、と仕分けていきます。迷ったものは一旦「保留」の列に置いて、1か月後に見直す運用にすると、決めきれなくて止まることを避けられます。
置きかえるときの注意
安い代替に乗り換える前に、必ず2つの点を確認してください。
ひとつは、移行の手間です。無料や安価なサービスは、たいていデータの移行を自分で行う必要があります。顧客データやプロジェクト管理データは、移行に数日から数週間かかる場合があります。安い月額だけで比較せず、移行工数を人件費に換算して総額を比べると、判断がぶれにくくなります。
もうひとつは、元のデータを、いつでも開けるようにしておくことです。乗り換えたあとに「前のデータのこの形式でしか持っていない資料が必要になった」という場面は起きます。乗り換え前の契約はすぐ解約せず、最低でもデータは書き出せる状態で、もう1回分の請求期間を残しておくと安全です。
今日できる最初の一歩
今日このあと30分でできることはこれだけです。
クレジットカード明細を1か月分、通販サイトや明細アプリで開いて、「SaaS・サブスクリプション」で検索してください。出てきたサービス名を、1行ずつスマホのメモに書き写します。
それだけで、棚卸しの材料の半分は揃います。次のステップは、書き出したものを1か月分だけでなく過去3か月分で見直すことですが、それは明日以降で構いません。今日はこの1ステップだけで十分です。
結び
ソフトの契約は、特別な道具を使わなくても、書き出すだけで見通しがよくなります。今回書いた手順は、ヤギヌマ企画が中小企業の事務ご担当者から相談を受けてきた中で、何度も現場で使った考え方を整理したものです。棚卸しの中で「これは自分たちだけでは判断が難しい」という場面が出てきたら、そのときに初めて外に相談する、という順番でも遅くはありません。