AIの話を、仕事の話に。データを預からない支援です。

その業務ソフトの更新料、何のために払っているか説明できますか——業種別・無償で使える実用ソフト一覧

結論を先に書く。

**たいていの業種に、実用レベルの無償ソフトがある。**思っているより多い。

**ただし、置き換えられる範囲は限られている。**この記事の前半は、その限界の話に使う。「無料で全部いけます」という記事ではない。

そして、この記事を書いている理由がもう1つある。**「サポートが無いから無理」が、以前ほど強い理由ではなくなった。**ここが数年で変わった点で、判断が変わる根拠になる。

順序は次のとおり。(1)まず置き換えられないもの、(2)一般事務で使えるもの、(3)業種別の一覧、(4)自分の業種が無かった場合、(5)サポートの話、(6)今日15分でできること。


毎年来る、あの請求

業務で使っている専門ソフトの、更新料。保守費。ライセンスの年額。

金額は現場によってまるで違うので、ここでは書かない。書けるのは1つだけだ。

その請求が何のための費用か、いま説明できるだろうか。

  • 去年、その保守で何をしてもらったか
  • 更新した結果、何が新しくできるようになったか
  • 使っている機能のうち、何割が実際に業務で必要か

**答えられるなら、この記事は読まなくていい。**適正に判断されている。

答えられないとしても、**それは誰かの落ち度ではない。**契約は自動で更新され、更新に理由の説明は要らない。担当者は替わる。確認する機会が構造的に無いだけだ。


先に、置き換えられないもの

デメリットから書く。次の場合、この記事の一覧を見ても意味がない。

1. 法令や制度で、使うソフトが決まっている場合。 認証を受けたソフトでなければ提出が通らない業務がある。選択の余地はない。 ただし確認してほしい。**「そのソフトでなければならない」のか、「その様式で出せればよい」のか。**後者なら別の道がある。実際には後者なのに前者だと思い込まれている例は少なくない。

2. 取引先が指定している場合。 同じ構造で、技術ではなく取引条件の問題になる。

3. 日本固有の様式・帳票に対応が要る場合。 **ここが実務では一番よく効く。**海外で作られた無償ソフトは、機能が優れていても日本の帳票様式や法令要件に対応していないことが多い。会計、給与、税務、申請書。この領域は、選択肢が実質的にほとんど無い。

4. 過去のデータがそのソフトの中に溜まっている場合。 移行して失うものがあるなら、一覧を見る前に止まる。

5. 誰も面倒を見られない場合。 **入れる人と、その後を見る人は別だ。**導入は業者に頼めても、その後の細かい面倒を見る人が社内にいないなら、入れないほうがいい。

**この5つのどれかに当てはまるなら、無理に置き換えないでほしい。**私が提案するときも、まずこの5つを確認する。そして、ここで止まる現場のほうが多い。


一般的な事務作業で使えるもの

まず、業種を問わず使う領域から。

表の読み方

  • **すべて2026年8月時点で更新が継続していることを、公開リポジトリで確認した。**更新が2年以上止まっているものは載せていない
  • **版番号は書かない。**すぐ変わるので、本の情報としては役に立たない。必要なら公式サイトを見てほしい
  • **ライセンスに † が付いたものは、自動判定ができなかったもの。**公式のライセンス表記を必ず確認してほしい。 第4章に「ライセンス表記は解説記事で誤っていることがある」と書いた。本書も例外ではない
  • **「向かない用途」が、この表でいちばん大事な列だ。**ここを読まずに導入すると失敗する
用途 ソフト(導入形態) ライセンス 日本語 向かない用途
ファイル共有 Nextcloud(自己ホスト) AGPL-3.0 † 人数が増えると同期の衝突調整と運用の負荷が上がる
ファイル共有 ownCloud oCIS(自己ホスト) Apache-2.0 部分的 GUIでの管理機能が限定的
パスワード管理 Bitwarden(自己ホスト) AGPL-3.0 † SSO/SAML の高度な連携は有償版のみ
パスワード管理 KeePassXC(デスクトップ完結) GPL-3.0 † サーバを持たないので複数人の同時編集ができない
パスワード管理 Passbolt(自己ホスト) AGPL-3.0 1〜2名の規模には運用が重い
業務の自動化 n8n(自己ホスト) Sustainable Use License † 部分的 **社内利用は可だがSaaSとしての再販は不可。**一部機能は有償版限定
業務の自動化 Node-RED(自己ホスト) Apache-2.0 IoT・機器連携寄りで、一般事務の自動化には遠回りになることがある
グループウェア Nextcloud Hub(自己ホスト) AGPL-3.0 † 大規模なメール基盤として見ると手作業が多い
顧客管理(CRM) EspoCRM(自己ホスト) AGPL-3.0 在庫・ERP機能が弱い。拡張は有償アドオン頼み
顧客管理(CRM) SuiteCRM(自己ホスト) AGPL-3.0 部分的 UIが古く重い
プロジェクト管理 Redmine(自己ホスト) GPL-2.0 † アジャイル系の機能はプラグイン頼り。UIは古い
プロジェクト管理 OpenProject(自己ホスト) GPL-3.0 一部の機能は有償版のみ
サーバ・機器の監視 Zabbix(自己ホスト) AGPL-3.0 小規模には過剰になりやすい
サーバ・機器の監視 Prometheus(自己ホスト) Apache-2.0 単体では長期保存と可視化が弱く、他ツールとの併用前提
サーバ・機器の監視 Nagios Core(自己ホスト) GPL-2.0 部分的 UIが古い。アプリ内部のログ収集は弱い
バックアップ Restic(コマンド操作) BSD-2-Clause **GUIが無い。**Windows での運用は情報が少ない
バックアップ BorgBackup(コマンド操作) BSD-3-Clause † **GUIが無い。**NASへの直接連携は別途ツールが要る
PDFの結合・分割 Stirling PDF(ブラウザ/自己ホスト) MIT † 高機能なOCRと透かしは有償版
PDFの結合・分割 PDFsam Basic(デスクトップ完結) AGPL-3.0 **分割・結合・抽出が中心。**本文のテキスト編集はできない
PDFの結合・分割 PDF Arranger(デスクトップ完結) GPL-3.0 テキスト編集とOCRはできない
画像・図版 GIMP(デスクトップ完結) GPL-3.0+ ‡ **印刷向けのCMYK対応が弱い。**Photoshop形式の一部機能も弱い
画像・図版 Inkscape(デスクトップ完結) GPL-2.0+ ‡ CMYK出力は別途工夫が要る。Illustrator形式の読み込みは限定的
画像・図版 Krita(デスクトップ完結) GPL-3.0 **イラスト・マンガ向けに偏る。**印刷用CMYKは弱い
チャット・社内連絡 Rocket.Chat(自己ホスト) MIT † 大規模になるとチューニングが要る。電話連携は有償版
チャット・社内連絡 Element(Matrix)(自己ホスト) AGPL-3.0 **音声・ビデオ会議は別製品。**暗号化ルームの運用に管理者の学習が要る
Web会議 Jitsi Meet(自己ホスト) Apache-2.0 **会議機能だけ。**チャットやファイル共有は別に用意する

‡ GIMP と Inkscape は GitHub にミラーが無く、更新状況を本書では公式サイトの記載で確認した。 † は自動判定ができなかったもの。公式ページで確認してほしい。

公式サイト: Nextcloud nextcloud.com / ownCloud owncloud.com / Bitwarden bitwarden.com / KeePassXC keepassxc.org / Passbolt passbolt.com / n8n n8n.io / Node-RED nodered.org / EspoCRM espocrm.com / SuiteCRM suitecrm.com / GnuCash gnucash.org / Akaunting akaunting.com / Redmine redmine.org / OpenProject openproject.org / Zabbix zabbix.com / Prometheus prometheus.io / Nagios nagios.org / Restic restic.net / BorgBackup borgbackup.org / Stirling PDF github.com/Stirling-Tools/Stirling-PDF / PDFsam pdfsam.org / PDF Arranger github.com/pdfarranger/pdfarranger / GIMP gimp.org / Inkscape inkscape.org / Krita krita.org / Rocket.Chat rocket.chat / Element element.io / Jitsi jitsi.org


業種別の一覧

ここからが本題だ。自分の業種の行を探してほしい。

先に、この表の限界を3つ書く。

  1. 日本の帳票様式・法令要件への対応は、本書では検証していない。 調べた範囲では、公的な情報源から確認できなかった。導入前に必ず自分で確かめてほしい。 会計・給与・税務・保険請求のように制度に紐づく業務ほど、ここが致命的になる
  2. **網羅ではない。**実用レベルにあり、更新が続いているものだけを載せた
  3. **「該当が無い」業種がある。**無理に埋めていない。無いと分かることも情報だ
業種 ソフト ライセンス 日本語 向かない用途
電気設計・制御盤 QElectroTech GPL-2.0 大規模FAの制御ロジック連携。盤メーカー固有の図面規約
機械設計・製図 FreeCAD LGPL-2.1 板金展開、CAM連携、大規模アセンブリの解析
電子回路・基板設計 KiCad GPL-3.0 部分的 大規模SoC、高速差動配線の検証
建築・土木(BIM) Bonsai(旧BlenderBIM) GPL-3.0 † 部分的 建築確認申請の実務、構造計算との連携
生産管理・在庫 ERPNext GPL-3.0 和文帳票の完全再現、複雑な組立のMRP詳細
生産管理・在庫 Odoo Community LGPL-3.0 † 日本の会計制度・帳票は有償版や有償ロケール依存
医療・クリニック OpenEMR GPL-3.0 日本のレセプト(保険請求)と診療録の法定様式に非対応
調剤・薬局 該当なし 日本の保険調剤に対応した実用レベルのものを確認できなかった
小売・飲食(POS) Odoo POS(Community) LGPL-3.0 † 適格請求書は有償版。複数税率のレシート詳細は追加開発が要る
予約管理 Easy!Appointments GPL-3.0 高度なテーブル管理、複数店舗の在庫連動
学校・教育 Moodle GPL-3.0 大学の基幹システム連携、学位授与の管理
士業(文書管理) Docassemble MIT 日本の契約書・訴状の様式に非対応
物流・配送 OpenBoxes EPL-1.0 日本の運送業法・配送伝票の様式に非対応
物流・受発注 Apache OFBiz Apache-2.0 部分的 日本の商慣習・帳票はカスタマイズ前提。UIが古い
不動産 該当なし 実用レベルの専用ソフトを確認できなかった
地図・測量(GIS) QGIS GPL-2.0 専用測量CADのような生データ処理
地図・測量(GIS) GRASS GIS GPL-2.0 † 部分的 学習コストが高い。GUIは初心者向きではない
動画編集 Kdenlive GPL-3.0 **放送局納品の仕様。**高度なカラーグレーディング
統計・データ分析 R GPL-2.0+ ‡ SPSSのようなメニュー操作を求める場合
統計・データ分析 JASP AGPL-3.0 部分的 大量データのバッチ処理
統計・データ分析 jamovi GPL-2.0 † 部分的 業界特化の組み込み分析

† は自動判定ができなかったもの。公式ページで確認してほしい。 ‡ R は CRAN が正本で、GitHub にはミラーしか無い。更新は CRAN で確認した。

外したもの(参考)

  • Fritzing(電子回路の試作向け): 最終リリースが2021年で、5年以上更新が止まっている
  • OpenSCAD(コードで形状を書くCAD): 開発は続いているが、安定版は2021年のまま
  • uniCenta oPOSGNU Health: 公開リポジトリの所在と更新状況を確認できなかった

「更新が止まっているものは載せない」というのが、この表の唯一の選定基準だ。 機能が優れていても、更新が止まったものを業務の中心に置くと、数年後に困る。

公式サイト: QElectroTech qelectrotech.org / FreeCAD freecad.org / KiCad kicad.org / Bonsai bonsaibim.org / ERPNext erpnext.com / Odoo odoo.com / OpenEMR open-emr.org / Easy!Appointments easyappointments.org / Moodle moodle.org / Docassemble docassemble.org / OpenBoxes openboxes.com / OFBiz ofbiz.apache.org / QGIS qgis.org / GRASS grass.osgeo.org / Kdenlive kdenlive.org / R cran.r-project.org / JASP jasp-stats.org / jamovi jamovi.org


自分の業種が無かった場合

**無い業種のほうが多い。**この一覧は網羅ではない。

だが、**一覧に無いことは「存在しない」という意味ではない。**探し方は決まっている。

  1. いま使っているソフトの名前 + 「代替」「オープンソース」で検索する
  2. **見つかったものの、最新の更新日を見る。2年以上止まっているものは候補から外す。**ここで大半がふるい落とされる
  3. **公式サイトでライセンスを確認する。**商用利用が明示的に許されているか
  4. 日本語で使えるか、日本の様式に対応しているかを見る
  5. ファイルの中身がテキストで書かれているか確認する

この5段階で、たいていの候補は3つ以内に絞れる。

5番目については別の記事に書いた。無償ソフトを選ぶとき、機能表より先に見るべき1点の話だ。


「サポートが無いから無理」への回答

ここが、この記事でいちばん書いておきたいところだ。

無償ソフトが選ばれなかった本当の理由

機能ではなかった。困ったときに聞く先が無いことだった。

商用ソフトには、金額の中にサポート窓口が含まれている。**この価値は普段まったく見えない。**使わない年のほうが多いからだ。だから見積もりを比べるときに軽く扱われ、無くなって初めて分かる。

無償ソフトには、公式ドキュメントと利用者の記事と掲示板がある。量としては十分にある。問題は、探す手間のほうだ。

自分が困っていることを正しい用語で表現できないと、検索に辿り着けない。**そして、困っている人は用語を知らない。**だから困っている。

用語を知らない人と、用語で書かれた情報の間に、橋が無かった。

AIが、その橋になった

「この画面で、こういうことがしたいのだが、どうすればいいか」を、**普通の言葉で聞けるようになった。**用語を知らなくても入口に立てる。

これが、無償ソフトの実務での使いどころを広げた一番大きな変化だと考えている。

ただし、解決しないことが4つある

ここを伝えずに導入すると、必ず失敗する。

  1. **画面のどこにあるかは、正確には教えてくれないことがある。**版によって違うので、最後は自分で探す
  2. **古い情報を返すことがある。**変わりやすい部分ほど外す
  3. 社内固有の手順は知らない。「うちではこう作る」はどこにも書かれていない
  4. **自信を持って間違えることがある。**存在しない機能の使い方を、それらしく説明する

**この4つを伝えずに「AIに聞いてください」とだけ言って配ると、「言うとおりにやっても違う」という不信になる。**そして一度そうなると、次に本当に使える場面でも使われない。先に言えば信頼は壊れない。後から言うと言い訳になる。

結論としての線引き

「サポートが無いから無理」は、以前ほど強い理由ではなくなった。だが「AIがあるから全部大丈夫」でもない。

正確に言うとこうなる。操作の習得と、よくある詰まりは、AIでかなり解決する。社内固有の運用と、急いでいるときの確実な答えは、人が要る。

**この線を導入の前に引いておくこと。**それが、この記事の実務的な結論だ。


今日できること(費用なし・15分)

置き換えを考える前に、いま何を使っているかを書き出す。

  1. **業務で使っている専門ソフトを、紙に全部書き出す。**Office とメール以外のもの。
  2. それぞれに、(a)年間いくら払っているか(b)最後に更新料を払ったのはいつか(c)去年その保守で何をしてもらったかを書き添える。
  3. (c) が書けないものに印をつける。

印がついたものが、確認の対象だ。

多くの現場で、**書き出した数が想像より多い。**そして (c) が書けるものは半分もない。

**そして、印がついたものについてだけ、この記事の一覧を見ればいい。**全部を見直す必要はない。


この記事で書かなかったこと

  • 一覧に挙げたソフトの導入手順(ソフトごとに違うため)
  • 移行にかかる費用や工数の目安(実案件で実測している途中。現時点で出せる数字が無い)
  • 一覧の網羅(実用レベルにあるものだけを選び、更新が2年以上止まっているものは外している)
  • 各ソフトの機能比較(機能表の比較を先にしない、というのが私の立場。理由は別記事に書いた)
  • 会計・給与・税務の領域(理由は2つある。日本の制度対応が要る領域で、無償の選択肢が 実質的にほとんど無いこと。そしてこの領域は、顧問の税理士・社会保険労務士と一体で回っていること。 ソフトだけを外から入れ替える話ではないので、本書では扱わない。 制度に紐づく業務は、その道の専門家と一緒に決めるのが正しい。

記事一覧へ戻る